鳴海京香2004





「真神くん、今からどうするの?」
「今からですか?」

それは仕事が少し早めに一区切りついた、ある日のこと


所長はいつも通りというのか、例によってどこかへ出て行ってしまったので、
俺達は先に事務所を閉め帰宅準備をしていた。


「特にこれといってないですが、暇なので少しぷらついていこうかと」
「そう?なら悪いけど付き合ってくれないかしら?」
「いいですけど、どこへ?」
「たまには、そうね・・・デートしましょう」
「は?」






−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 7月2日は・・・ −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

びっくりした まさか京香さんの口から”デート”という単語がでると予期していなかったので 俺は口をあけたまましばらく返答ができなかった 「もう京香さん、買い物なら買い物と最初から言ってください」 「あらごめんなさい。でもこれってデートっぽいじゃない」 「所長の頼まれ物を買いに行くだけでしょう」 「うふふふ」 どうやら所長は事務所を出るときに京香さんに買い物を頼んだらしい 律儀にもそれを買いに行くのに俺は付き合わされた、それだけ 「あまり買い物好きじゃないのよね私。いつもなかなか店から出られない状況になっちゃうから」 「・・・判ります」 ある事件で参考の為に立ち寄ったショップで、購入必要もないのに店員にとっ捕まり、 最終的に買わざるを得なかったのは記憶に新しい。 断れない性格 わかってはいるけど、傍目から見ると危なっかしいのだ彼女は 「だから真神くんに付き合ってもらったの」 「はいはい、じゃあすぐ済ませましょうね」 連れて行かれたショップは雑貨屋というのか、俺1人では入りにくそうな外観のところだった 「あの、京香さんここで一体何を買うんです?」 「えっとね、お父さんここのキーケースしか使いたがらないのよ」 「キーケース・・・」 のようだ、依頼物は しかし 「でもここ女性用品店っぽく見えるんですけど」 「あら?真神くんそんなことないわ、だってほらこれ」 といって彼女が手にとって見せたものは どう見ても男性専用のネクタイ 「今はきっとこういう風に女性向けの外観がはやるのよ」 「そうなんですかね」 なんともまぁアンバランスな物体 雑貨屋訂正、よろずや、と言ったところだろうか 「あったあった」 お目当ての物はすぐに見つかったようだ 「お父さんね、1年保たないのよキーケース」 「い、1年!?」 「そーなの。なんでかしら?男の人ってそういうものなの?」 「どうでしょう」 たぶん違う、いや絶対違う それは所長の使い勝手が悪すぎるから・・・ と思ったが、あえて言うほどのことではなかったので俺は黙っていることにした 「じゃあお会計すましてくるわね」 「はい、いってらっしゃい」 そう言って京香さんは精算をしにカウンターに向かった 5分 10分 ・・・・・・ 遅いな ひょっとしてまた捕まってる?! 「京香さーん」 俺は精算から10分以上も戻ってこない京香さんを迎えにカウンターに向かった 「京香さん、どうしました?」 「え?あ、真神くん・・・」 「(また捕まってるんですか?)」 店員さんに聞こえないように俺は小声で問いかける 「あら、彼とご一緒だったんですね」 「え?」 「買って差し上げたらどうでしょう?」 「は?」 「気に入られたんですよね?それ」 「あっごめんなさい、ちょっと可愛かったから・・・」 そう言う京香さんが目を輝かせて見ていたのは 「なんですか?これ」 そこには、指輪?にしては小さいわっか・・・ピアス、なのか? シルバーのアクセサリーがずらりと並んでいた 「ピンキーリングです」 すかさず店員が説明に回る 「ピンキー・・・」 女の人が好んで付けてる、あれか? 実際販売されている場を見ることがなかったから、しっくりこなかった単語 「小指にする指輪です。女性には人気がありますよね」 「そ、そうなんですか」 俺はこういう聞いてもいないことを話してくる店員が苦手だ 「どうです?」 「いや、俺は・・・」 ”彼”ではないので 「京香さん(そろそろ引き上げましょう)」 「はっ!!ごめんなさい」 「京香さん?」 京香さんはどうやら店員に捕まっていたわけではなさそうだった この状態からすると 「あの、京香さんもしかしてこういうの、好き・・・?」 「え?あの」 顔をカァーっと赤くする京香さん どうやら好きらしい めずらしいなと思う どちらかといえば京香さんは素のままで、あまり飾りとかを付けない人かと思っていた まぁ女性は自分を綺麗に魅せる術を本当は持っているのだから 京香さんだって指輪やネックレスの類が”嫌い”ではないだろうけど でもなんだか以外だ 「ごめんね、真神くん、すぐ精算しちゃうわ」 やっとあたふたと財布をとりだし頼まれ物の精算を始める 俺は京香さんのその姿と、カウンターの中のリングを見比べた あ・・・ 「これください」 「はい。ありがとうございます」 「え?真神君、それ・・・買うの?」 「ええ」 「・・・・・」 「・・・・・」 「そう、誰かへのプレゼントかしら?」 「そんなところです」 「そっか、そうなの・・・」 「・・・・・」 「ありがとうございました」 俺と京香さんはそれぞれの買い物を済ませ店を出た 日が長くなっているとはいえ、外は随分薄暗くなってきていた 「目的のものすぐあってよかったですね」 「ええ。真神くんも、それ・・・よかった、わね」 「あ、・・・あはは」 指摘されちょっと悩む よしっ、と意を決して俺は 「京香さん」 「え?」 「早いですが誕生日プレゼント」 「・・・・・」 ええーー!? 「そんなに大きな声出さなくても」 「ちょっと真神くん!どういうことなの!?」 「え?だってこれ欲しそうだったから」 「そういうことじゃなくて!!」 「違いました?本当はこれじゃなくて隣のやつだったとか?!」 「違うわよっ」 「あ、間違っても経費扱いなんてしないですよ」 「もぅっ違うってば!!」 「なら・・・どうぞ」 「受け取れないわ」 沈黙の後彼女の口から出た言葉は拒否 「・・・なぜ?」 「無理よ」 「あ、目の前で買ったのがだめでした?」 「そうじゃないの」 「なら、ね?」 「真神くん、あなたピンキーの意味判ってるの?」 「はい?」 「だからもらえないの」 そう言って彼女は俺の前から走り去っていった 暗闇に取り残された俺 ・・・・プレゼントにしては早過ぎたのか? それとも本当は指輪を見ていたわけではなかったとか・・・ 俺からのプレゼント自体が嫌だった? 判らない 判らないので結局俺はそのピンキーをポケットにねじ込んで家路へと向かった ブイーン 起動音をたてパソコンが立ち上がる 女は難しい 欲しいならもらってくれればいいのに 俺はポケットの中の物に触れる 彼女の見ていたそれは、絶対コレだ シンプルなゆるやかなカーブでできたリングの内側には 赤い石 値段からして模造品だとは判っているが 7月の誕生石 間違いない なのに何でだろう? 真神くん、あなたピンキーの意味判ってるの? 左手の薬指の意味なら知ってるが・・・ 判らないので立ち上がったパソコンで検索してみることにする 「”ピンキーリングの意味”でいいのかな?」 カタカタカタ タン 一瞬の間があり検索結果がずらりと並ぶ 「どれ見ても同じなのか?」 適当に3番目の検索結果をクリックする 「えっと、『ピンキーリングとは小指にするリング』・・・」 そんなことは判ってる 先を読む さして不可解な内容ではないみたいだけど 俺は次々検索をめくっていく 読む 読む えー・・・と まさか、な これ、なのか? どうしよう 今日のところは寝てしまって、明日何事もなかったように・・・ できる訳ない!! 俺は念のため他のサイトを更に探ってみた 「他は、普通か」 どうしよう 知らないふりした方がいいのか? そもそも俺のヒットさせたこの情報の信憑性というか、 それよりなにより京香さんがコレを意味してあの言葉を言ったかは判らないじゃないか うーんうーん 結局悩んだ結果俺は 「あ、京香さん?俺です、真神です。これから伺ってもいいですか?」 「どうしたの真神君」 「すいません、突然」 「いいけど・・・あがってく?」 「いえ、すぐなんで」 俺は結局真意を確かめるために鳴海邸にやってきた 「これ」 ポケットから先程のリングを出す 「だめですか?」 「・・・真神くん、言ったわよね?ピンキーの意味−−−」 「調べました。だから今きたんです」 「え・・・?」 間違っていたら、俺は本当に恥ずかしい奴だろうなぁ 「受け取れない理由は俺だからですか?」 「・・・・・」 「俺、では無理ってことですか?」 「・・・・・」 俺はゆっくり息を吸い込み、確かめる 「間違ってたらすいません。けれど俺の確認した理由には、こうありました」 「ピンキーをすると、幸せが逃げない」 「そう・・・です。けど」 先に京香さんが口に出した言葉 そう、確かにそうあった。 けれど俺の検索して、気になったのはそこではない 違う 違っていたのか? 「判ったわ。せっかくだからもらっておくわね」 ふっと、俺の手の中にあったその包みが京香さんに渡る 「よく私がこれを見ていたのが判ったわね、真神くん」 「・・・誕生石がついていたから」 「ふふふ、よろしい。さすがはうちの所員ね」 「・・・ええ」 「用は終わったのかな?」 「え・・・ええ、大半は」 本当は真意を確かめにきたはずなのに、いつのまにか曖昧にされているのに気づいた 「ねぇ真神くん」 「え?」 「ありがとう。これ大事にするわ」 「いえ、大した物じゃないですし、それにまだ誕生日先だから」 「うん、そうね。やだ真神くんったら本当気が利かないのね」 「男なんてそんなもんですよ、大概」 釈然としないが、目的は果たせたのでまあいいか 本当にいいのか? 「京香さん、それ俺にはめさせてもらえませんか?」 「え?・・・な、何言ってるの真神くん!?」 「プレゼントは手渡ししないと」 俺は手を彼女に差し出す 「恥ずかしいからいいわよ、そんなの」 「俺も恥ずかしいです」 「なら・・・」 「でも、です」 包みを開けると小さなシルバーのリングが手の中にこぼれ落ちる 「俺が確かめたピンキーの意味なんですけど」 「・・・もう忘れていいわよ、それ」 「よくないです。俺の気持ちがかかってるから」 「まがみく・・ん?」 「・・・あってます?」 「たぶん・・・正解」 「そっか、『さすがうちの所員』ってところですか?」 「そう、ね」 「ありがとうございます」 「なんで真神くんがお礼言うの?」 ふふふ、と柔らかく京香さんは笑う 「だって、チャンスくれたじゃないですか」 「偶然よ、きっと」 「なら、神様に感謝しないと」 「本当ね」 「おめでとう、京香さん」 「・・・水を差すようで悪いんだけど」 「なんです?」 「これ、サイズが合ってないわ」 「・・・・・」 「・・・・・」 「やっぱり真神くんね」 彼女は今日それこそ一番の笑顔で俺をねぎらった・・・のか? −−−fin 7月2日

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