鴨居奈々子2005



「っとケーキ持って、これ・・・うん」

忘れそうになったものを引き出しの中から取り出して

「これも渡さないとな、・・・よし」
ちゃりっと握りこむ


この結果がどうなっても、何を生んでも
それは自分が望むものとして





−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 堕天使 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

「おっそーい」 扉を開けると開口一番出迎えの言葉は成美のそれだった 「すいません、もうきてます?」 「まだよ」 「だったら−−−」 「だめよ?真神くん、何事も10分前行動っていうし」 京香のその返事に ・・・・まだ30分も前ですけど、という言葉は飲み込んで 恭介は走ってきた疲れと緊張とを抑えて笑う 「以後精進いたします」 「よろしい」 夕方になったばかりのスピリットで、今日は早々貸し切りパーティーを開くことになっていた 周りがこういったイベント時にはとかく早めに集まってくることは恭介も十二分に知っている 「やっほ恭ちゃん、持ってきた?」 「ああ、今日の朝作ったできたて」 「・・・だめ?」 「・・・決まってるだろ」 「でもちょっと」 「だめったらだめ」 哲平なぞは恭介の作ってきたケーキのにおいにつられもう我慢できないといった表情を浮かべて この場所がなくならない方法とは逆のことを今から俺はとってしまうのかもしれない−−− 「今日の姫がそろそろ出番じゃないか?」 準備も程良くなってきた頃、誠司の声かけでもうそんな時間になったのだと皆気づいて 「ホント?なら・・・真神くん」 「え?俺、ですか?」 「恭ちゃんしかおらへんやろ、普通に呼びにいけるん」 「お前がいけばいいじゃないか」 「まとめて行ってくれば?」 「そうだな、いってこい弟子ども」 「・・・・・」 「−−−−−」 顔を見合わせた弟子件下僕のふたりは言われたとおり一緒に扉に向かう 『なぁもってきたんか?』 『・・・うん、でも悩んでる』 『そか・・・んでも早よせんとやっぱあかんやろ』 『そうだよな』 『あんま悩んどーと、オレもらってまうよ?』 『−−−どっちの意味?』 『めちゃ微妙』 『・・・ずっと相棒だよな?』 『愛は不滅ってこと?』 『−−−−−馬鹿』 『おおきに』 ほめていない言葉なのに御礼を言われてしまったが、それで恭介の心が決まった 「俺がいくよ」 「おっけ、ほらなオレは退散するな」 勝負どころという意味で視線だけ絡ませて哲平が部屋へと戻っていく それを確認し 「よし」 小さく息を吸い恭介は静かにスピリットの扉を押した 店の外に出ると階段の上で待つ姿がすでにあった 「あ、みーならいっ」 「よ」 恭介の気配を察したのかすぐに気づき ぴょこっと髪の毛を浮かせる勢いではねてはしゃぐ相手に軽く手を上げて挨拶を返す 「準備できたみたいだから、迎えに来た」 「うん、そっかなーて思って、だから奈々子もさっききたところ」 「そか」 年に何度こんな催しが行われるのか そして何年繰り返して、いつまで続くのか けれど今、恭介の思いが変化させてしまうかもしれない 「じゃあもー店に入ってもいいんだよね?」 「ああ、・・・なぁ奈々子」 「ん?」 いつもより少しだけよそいきの服に身を包む奈々子 その奈々子にいつもよりだいぶ言いづらそうに声をかける恭介 「少しいいか?」 「?なに、なーに?」 もう出会って何年がたつのだろう だけどこの目の前の天然女はいつまでたってもかわらなくて 過激で、読めなくて、あいかわらず飯は恐怖だし 女子高生なんてとっくの昔に終わったはずなのに未だに学生気分抜けてないし でも、だから 「これ」 ちゃりっと音をさせるものはポケットから取り出された金属 先程部屋を出る時に引き出しから取り出したそれ 「?・・・え・・・」 「俺から」 それはまだくすみのない金属 奈々子の目の高さに持ち上げるその物こそ、恭介にとっては今をつむぐ糸 「えと・・・誕生・・日?」 「それ以外に何があるんだ」 「・・・あ、ありがと」 本意はどうあれ”わーい”と、にべもなく喜びの声を上げるのかと思いきや 「んだよ−−−−いらないなら別にいいけど」 思いも寄らない反応に恭介は愕然となる それに対しての奈々子の答えは 「んーーーーー、これってなんで・・・これなの?」 これ。 これとは恭介が奈々子にプレゼントしたそれで シルバー素材の一枚羽をかたちどったネックレス 「店頭にあって一番よさそうだったから」 それから名づけられている意味が自分の奈々子に対する気持ちだから 「それってこの通り(遠羽通り)抜けたところにあるお店?」 「あ、ああ」 「そっか・・・」 「苦手だったのか?」 「うんん、好き」 「だったらなんで−−−」 「ごめんごめん、だってあんまり突然だったから、予期せぬことってあるもんだなーって」 慌てた後に見せた ふんわりとえくぼが出そうなくらい笑うところも昔となんら変わらない 「いらねーんなら返せ」 「嫌だよーん」 さっとそれを拒むかのように首にかけ きゃらきゃらと笑って逃げ回る奈々子を目で追う 言った方がいいのだろうか 伝わってない気がする ひとまず渡すことができたことでの開放感と 自分の意思が相手に伝わってないんじゃないかと思う焦燥感が微妙にブレンドされる けれど口に出すのは苦手だし、この空気が淀むなら出さないほうがいいこともある いつまでも不変なことなんてありはしないのに、なぜかこのままでも変わらないんじゃないかって 自分の楽になれるほうに流されてばかりで 俺はいつもそうだな 「ね、似合う?」 「ああ」 今日の服にはシルバーアクセがよく映えて 自分があげたものなのに、恭介はその様子に時が止まりそうになる 「ねーこれの意味知ってる?」 「ああ?」 「コレの名前」 ちゃりっと首から持ち上げて笑顔を消さないまま聞いてくる奈々子に 一瞬思考が停止した 「知らなかった?コレ、奈々子も同じお店でちょっと前に見てね」 「−−−−−−−」 「その意味でくれたんだったら」 喉が一気に渇く 自分の気持ち 大切な、言葉にしたくて、けれどできないほど照れてしまうような 言い淀んでしまうその意味を こいつは知っている−−− のではないだろうかと思うと 焦りで手と背中に汗がにじむ 「その意味だったら?」 だから復唱することしかできなくて 「・・・かなりあれだよね」 薄い茶色の瞳が揺らめいている気がする・・・のは自分だけだろうか 背中が緊張で熱くなる こんな体験、過去相手からは何度か受けたことはあっても 自分の方からは初めてで どう言葉にして良いのかわからなくて 今逃げるのは反則だよな 「そのまんまの意味だよ」 側にいてくれてありがとう ・ ・ ・ ・ あれ? 「・・・・・・」 無言 納得されてないのだろうか? 無言の意味するところがわからない 何らかのリアクションがあっていいようなシチュエーションなはず 「−−−気に入らないんだ?」 「別に」 すねたような態度が失敗を示す ああ、だめだったのか 気に入らないというか それはNOの意味合いの方が大きいんじゃないかって気さえして 玉砕ってことになるなぁ 考えて考えたこの数日が無駄になり泡と消える変わりに なぁんだ、ってのとやっぱりかな、という思いが交錯する 玉砕、か しかも奈々子相手に 哲平にどう報告するかなぁと、内心ため息を付きながら 「返そうか?」 「んーん、見習いがくれたものだからね、もらっておくよ」 「なんだそれ」 「だってちゃんともらったの初めてだし」 「でも気に入らないんだろ?」 「・・・微妙に意味が」 意味・・・ そんなに気に入らなかったのだろうか 自分の思いが詰まったのが重いとでも言いたいのだろうか ネックレスの商品名は 「blue-angel」 天使・・・青い天使 その意味が微妙に気に入らない かわいすぎるのがダメだったんだろうか どのみち俺自身がダメだった場合はそんな商品の意味どころの騒ぎではないのだけれど 「ブルーって意味、堕ちるとか憂鬱とかあるよね」 「・・・・・は?」 どこかずれたところで自分の探していた答えにたどり着く 堕ちた天使 憂鬱な天使 まさか まさか奈々子−−−?! 「その意味で奈々子に渡したんなら、ちょっと最悪じゃん」 「・・・・・・・・・・・・・・・・」 ああ、本当に ある意味で玉砕 しかもまるっきり通じてないじゃないか 思わず大声で恭介はまくし立てる 「お前本当に学校行ってたのか?」 「なにいってんの?私学校大好きだったし」 「いやまて、違うか・・・あのな?奈々子」 奈々子の言わんとしたいことを確認し、説得に取り掛かろうとしたが その相手は既に自分と向きをなしていなかった 「も−いいよ、難しい話めんどくさいし、みんな待ってるからいこ?」 「おい待てよ」 階段を駆け下りるのを呼び止めて、振り返ったその顔は 苦笑とも微笑ともとれないなんとも言えない顔で笑っていて事の大きさを語っていた 違うんだ 「喜んで、でもぬか喜びってやつだったなー」 「あのなぁ、ちょっと待てって」 ばかやろー、そんな馬鹿な意味で渡すかよ 誤解とは言わないが、本意とは違った解釈をされたままでこの時間が途切れてしまうのはやるせなくて 「どこの商品に悪いイメージくっつけて販売する店があるんだ?」 「・・・堕天使って、じゃぁどういう意味でくれたの?コレ」 最大級の馬鹿だこいつは 違うっていってるのにっ しかも墜天使だなんて、良いのか悪いのかわからない人の作り出した単語で そしてちゃんと想いを口に出せない自分はもっと馬鹿で 「だから、なんていうか、ブルーってのはそういう意味じゃなんだってば」 「じゃあなに?もういいよそんな後から付けたみたいにさ」 自分の解釈を鵜呑みに、人の言うことに対してはなから受け入れ用とはしないその態度には参る 「何怒ってんだよお前」 「怒ってないよーだ」 苦々しく眉を寄せベーっと舌を出されて更にため息 「怒ってんじゃないか」 かつんと階段を下りる 「ブルーって意味には確かにそれもあるかもしれないけど」 一歩二歩と奈々子との差がつまり 「・・・ピュアって意味もあるんだよ、この馬鹿が」 追いついた 「だからなに?」 「あーっとだからな」 迷っていた言葉が形になり初め 意を決して恭介は奈々子の頭の上に手を乗せた 「ピュアってのはフランス語でpur、英語で言うと−−−」 「言うと?」 ふわふわの髪が指に温かい感触をもたらして 「辞書ひいとけ」 「えーーーー!?何それ!?そこまで言っておいて内緒なの?」 ぽんぽんっと頭をはねて笑う 「何事も勉強だ」 「奈々子しないよ?」 しても意味がないから、とでもいいたげな口ぶりで断言されて仕方なしに教えてやる 「たくしょーがないやつだな、ピュアってのは英語で純粋、Purityをさすんだ」 思いを込めて、伝わってくれと 素直な気持ち、素直なお前がどれだけ大切かってことを 「・・・・・見習いってロリコン?」 「・・・・・・・・・・・・・」 やっぱり伝わらない 伝わらなかった どんなににお前が大事でかわいいって思っていても 相手がお前じゃ直球投げてもカーブしてしまうのか 遠回り過ぎる恭介が悪いのか、奈々子の単純な思考が悪いのか 「あーのーなぁお前」 「プリティーってかわいいってことで、ゴスロリとかの商品名でそんなのあったしぃ あ!!、まどかちゃんとかにも人気あったしぃ、そっかそっか見習いはロリコンなんだ♪」 「ちょっと待て」 そしてそのまま店の中に入っていってしまう 「やっほー、ねー聞いて聞いて、見習いってばねー」 「おい奈々子っ!!!?」 指先で髪すくった甘い感覚だけが自分を置き去りにし 現実からも置き去りにしていく どうしてあいつはああなんだろう ため息混じりにはしゃぐ奈々子の背中を見て思う 俺の想いはどうすればいいんだよ てかお前品物だけもらって、こういう場合俺の立場は・・・ でも、ま、きっと俺もだめなんだよな 伝わらないのは奈々子のせいではなく、ちゃんと言えない、いってやれない自分がいるから いざ大切を口に出そうとすると、口に出す分だけ自分自身嘘っぽく感じてしまうから だから今までいったことがなかったんだし でもな?その羽は確かに天使から抜け堕ちた羽かもしれないけど お前のそのいつまでも変わらない純粋な態度と笑ったところがblue-angelなんだよ? だから俺はそんなお前こそ天使に思えるし、これからもずっと側にいてほしいって そういう気持ちなんだけど、な それが伝わってれば 時間がかかってもいつか伝われば−−− 若干普通と違う思考なのは果たして奈々子か恭介か 店内に入るまで待たせたのをみんなに冷やかされながら進む奈々子の誕生日パーティーに いつか形にって思ったけど、形もあいつには通じないんだな いつか・・・いつかちゃんと言葉に出してもわかってもらえるか それも不安だけど 今年も一緒にいられてよかったなってことでよしとするか 伝わらない恭介の想いが更けていく夜とともに交じって溶けていった ---2005/06/07

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