白石哲平2005







	−−−ねぇお兄ちゃんお兄ちゃん


なんやどないした?


	−−−んとね、これ・・・あげる


なん?これオレに−−−?





−−−うん、だから、はやく・・・・・みつけてね





ああ、もう少し
あと少しで開けることできるから










−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− これ日々日常なり −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

3月23日、大抵毎年この日はこの夢を見る だから忘れたことなんてあらへんし だけど夢で渡されたもんと、渡してくれた子ぉが誰か、はさっぱり 3月23日か 「年食うんも良し悪しやな」 誕生日か 日はまだ明けて間もないけれど 「よっしゃ、今日もいい天気でよかったわ」 窓を開けると春の風が気持ちよくて思わずのびもしてまう 「ご隠居、散歩してきますわ」 「おー成美の様子でも見てやってくれ」 「はいな、了解しました」 いつもの日常が始まる 忘れたモノを探す思いで なくした記憶を辿るように いつもの日常なのに今日この日は普段と違ごうた思いで過ごさなけりゃならへん 誰が何をくれたゆうんや? はじめは単なる夢やと思うて それから徐々に大人になるにつれ誰かからの電波ちゅーんか 暗号めいたものかと考えて 毎年重ねられる夢の残像が今日だけオレを蝕むように拘束する 誰かに口にだして聞いたことなんてあらへん 当然やろ、んなの 「だって夢やし」 でも毎年見るのは本当 「恭ちゃんなら聞いてくれるんかな?」 ふと頭に浮かぶ相棒の姿 うん、恭介ならいけそうや 探偵やし、優しいし、まじめやし・・・・オレの親友やし それ以上に 「お人好しやしな」 苦笑 いやーそこが恭介のいいとこなんやけど 仮にオレが嘘でこの話しても真剣に考えてくれるんやろって間違いなく想像できる 「絶対探偵にはむいてへんよな、あいつ」 今晩会うことになっとーし、そん時にでも話してみるかぁ 閉め切った扉を開けてくれるのかもしれない 求めたこと、知りたいこと オレの欲求を満たしてくれる存在があるってことが今嬉しい 「はー飲み過ぎたわぁ」 「ほんと、お前ザルかよ」 「恭ちゃんが飲めなさすぎなんやって」 「あんたのおかげであたしが飲むの削ったってわかってるんでしょうね?」 「はいなはいなぁ、今日だけですから我慢してくださいよねーさん」 「白石くん歩いて帰れる?大丈夫?」 「京香ねーさんまで、恭ちゃんやあるまいし、記憶とんでませんし、これくらい大丈夫っす」 「哲平?どういうこと?」 「いた、痛いって恭ちゃん、つねるの禁止」 「あははー哲平ちゃん恐妻家だねー、尻にしかれちゃうねー、きゃはは 見習い絶対いい奥さんっぽいけど怖そうだよねー」 「「脈絡ない話はよせっ!!」」 お約束でスピリットはいつものメンバー以上に人が集まっていて ささやかと言うにはあまりにも盛大に「お祝い」を受けてもーて 「みなさーん、今日はほんまありがとさんです、白石感激ー!!」 「酔ってるな」 「はー、ばかみたい」 「白石さん、カウンターに乗りあがるのやめて下さいね」 ええやん、年1やし それに・・・それにこの後ちょっとしたシリアス話せなあかんのやから 今くらい盛り上がったって ちょっと話すの怖なっとったって−−− 忘れた記憶 思い出せない形 それってやばいんか? 毎年この日だけってなんか意味あるんやろか ひも解く必要あるんやろか−−− 「哲平?どうした?」 けどそんな気持ちもやっぱ恭介の顔見るとかき消えるのが実状で 「ん・・・どっから話したもんか」 そわそわとカウンター周りにみんなが散っていったのを見計らって恭介だけに声をかける 「オレ、変な夢見んねん・・・毎年1回」 ・ ・ 「ふーん・・・ちょっと凄いなそれは」 「凄かないやろ?んないな」 「いや・・・ちょっと想像付かなくてさ」 「恭ちゃんからそないな言葉聞くと怖なるやん」 「あ、ごめんごめんそう言う意味じゃないんだけど」 「ならどないゆーん」 「そうだな・・・例えて言うなら−−−」 ゆっくりと椅子を回転させて恭介は後ろを向く せやからオレもつられてそっちを見ると 「あ!そーだった忘れてたよー」 ぱちっと奈々ちゃんと目が合って にっこり笑ってそうゆーて 「うん?」 女連中がごにょごにょ耳うち始めた 「恭ちゃん?なんかあるん?これに」 「いや・・・なんとなくそうかなって・・・カンってやつかな?」 「−−−−は?」 たまに恭介は変なことを言う それは大概オレには理解できへんくて恭介の頭の中で片付けて終わってしまうもの 「んーっと、俺たちってこの形になったのいつからだっけ?」 「えぇ!?形って・・・恋人?」 ドカッ!! 「ったーいきなり殴ることないやろっ!!」 後頭部に強い打撃をもらってしまったやないかぁ 「いつからだっけ?このメンバーで集るようになったのって」 「・・・すかすのうまくなりすぎ」 「いつからだっけ!?」 声のトーンが怖くなっていくんを体感できるのもたぶんオレだけなんやろな 「恭ちゃんがきてからやし・・・2年くらい?」 「それまではお前誕生日とかどうしてた?」 「誕生日?」 「もっと砕いて言うとどんな気分で?」 ん? どないなって・・・ 「せやなぁ、ご隠居と会うてからは比較的平穏にやけど、その前は腐っとったかも」 「奈々子や成美さんとは?」 「んーーー、ねーさんはたまにご隠居んとこで会うたけど、誕生日わざわざ祝ってもろうこと なかったかもしれへん。 奈々ちゃんはもっての外」 「なんで?」 あれ?な・・・ん 「別に単なる友達やったし、ねーさんかてほんまもんの家族やなかったし」 「じゃあ今は?」 なんやこの目 いやに−−−でもそんなんいつもそうやろ 「仲間かなぁ・・・友達ゆーんも今更って感じやし」 ツレゆーんはどうもしっくりこない単語 それ以上の何か、特別な 「ご気分は?」 「苦しゅーないって思うよ、そりゃ・・・嬉しいし、あったかい」 ああ、やっぱそうなんかなって 今日起きたときちょっとは思ったこと 「じゃあそれなんじゃないか?」 「まじで?」 「ちゃんとした日本語つかえって」 「ほんま?」 「たぶん、お前のここが−−−いってたんじゃないか?」 トントンと拳を軽く胸に押し付けられて 「おーい、奈々子渡してやれよ」 「うん」 笑いながらオレをみんなが囲む わいわい主役のオレより楽しそうに包みをほどいて中味を見せてくれて 「ほら、ちゃんとお礼いいなさい」 ぽんっとねーさんがオレの背中を後押ししてくれて 「ありがとな、オレんためにすんません」 「謝るところと違うやろー、きゃはははは」 オレの真似してチョップしてくる奈々ちゃん 「あのね?みんなで白石君に内緒でこっそり買いにいったのよ?」 「ええ?みんなって京香ねーさんと成美ねーさん一緒に!?」 「そーよ、あんたのためにね」 二人とも照れたような怒ったような顔で視線を合わせるとことはないけど 「よかったな、みんなお前を祝ってるんだって」 珍しく肩に手を置いて、なんや久しぶりにこんなに至近距離で顔見た気ぃする恭介 「うん・・・うん。ほんまありがと」 ありがと、見つけてくれて ありがとう、オレを捨てないでくれて 解かれた答えはあっけなく混じって解けて自分の物になる −−−ねぇお兄ちゃんお兄ちゃん なんやどないした? −−−んとね、これ・・・あげる なん?これオレに−−−? −−−うん、だから、はやく・・・・・みつけてね 早く、オレの居場所を見つけてね−−− ようやっと確かな感覚で言ってやれそうな気ぃするわ ここがお前の場所やって 何度巡っても見続ける夢 せやけどもう今度の年は見ぃへんのやないかって信じとる 忘れた記憶 思い出せない形 ううん、ちゃうんや そないなもの初めからあらへんかったんや 見つけるゆうんは、貰うたもんは−−−この気持ち 暖かくて曖昧だけど不変やって言い切れるこの気持ち やっと開いた扉の向こうで待っていたのは 今目の前で”オレ”を祝ってくれてる仲間みんなと オレ自身 失ってないけど見つけ出さなあかん 例えて言うならパズルのピース オレの探していた欠片がぴったりとはまった感じ 「どうだった?」 「そうかも」 「お前かわいいやつだな」 「−−−−−ってなんやねんそれ?」 「いつものお返しだよ」 「たまに嫌なやつになんな恭ちゃんは」 「たまには、な」 いつもの、って言えることが大事 自分ひとりで生きているわけでも、頑張ってんの自分一人だけじゃないって この場所が教えてくれた 頼ってええって、力抜いてええって だから、せやから 「なぁ恭ちゃん」 「うん?」 照れ隠しにタバコに火ぃつけながら顔も見ないでゆーてまうけど わかってくれるよな? 「オレを見つけてくれてありがとな」 来年はきっと見ない この場所と引き換えに失った、小さな小さなオレの声 だけどそれは寂しいとかそういう感覚じゃなくて オレの中にずっと奥深くにしまわれていた声で でも聞いてくれる人が見つかったから 何度春が巡ってきても、この場所は永遠に−−− オレの中から変わらない 見つけたのはなくした欠片やのーて 失うことができないオレの一部 ・・・MISSINGPARTS ---fin 2005/03/23

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